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札幌高等裁判所 昭和30年(ネ)228号 判決

控訴人 日曹炭鉱株式会社 外七名

被控訴人 北海道森林組合連合会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方のなした主張、立証は次のとおりである。

一、被控訴人の主張および答弁。

(一)  昭和二十九年四月一日同日付手形約定書(甲第一号証)を以て被控訴人と控訴人ら間に、控訴会社が振出、引受参加引受もしくは裏書、保証をした約束手形又は為替手形により被控訴人に対して負担する既存の債務もしくはその後負担することあるべき手形債務について、控訴会社において手形の支払期日にその支払を怠つたときは支払当日まで日歩六銭の割合による過怠金を支払うこと控訴会社の右債務につき控訴会社を除くその余の控訴人らにおいてその保証をなし各自連帯してその支払をなす旨の契約が成立した。

(二)  控訴会社は、被控訴人に対し、次の約束手形四通を振り出し、被控訴人は現にその手形の所持人である。

(イ)  額面金百万円、支払期日昭和二十九年十月十三日、支払地札幌市、支払場所株式会社日本興業銀行札幌支店、振出地東京都中央区、振出日同年七月二十六日。

(ロ)  額面金二百万円、支払期日昭和二十九年十月二十三日、支払地札幌市、支払場所株式会社日本興業銀行札幌支店、振出地東京都中央区、振出日同年七月二十六日。

(ハ)  額面金三百万円、支払期日昭和二十九年十月二十七日、支払地札幌市、支払場所株式会社日本興業銀行札幌支店、振出地東京都中央区、振出日同年八月九日。

(ニ)  額面金二百万円、支払期日昭和二十九年十月二十七日、支払地札幌市、支払場所株式会社日本興業銀行札幌支店、振出地東京都中央区、振出日同年八月九日。

(三)  被控訴人は、右手形の各支払期日に支払場所においてこれをそれぞれ呈示してその支払を求めたが、いずれも支払を拒絶された。

(四)  よつて、被控訴人は控訴人らに対し連帯して金八百万円および内金百万円については昭和二十九年十月十四日から、内金二百万円については同年同月二十四日から、内金五百万円については同年同月二十八日からいずれも完済に至るまで前記約定の日歩六銭の割合による過怠金の支払を求める。

(五)  控訴人ら主張の日時にその主張のような保全処分決定のあつたことは認める。しかし、右決定は、控訴会社の負担する金銭債務につきその任意自由な弁済を仮りに禁止する趣旨のものであつて、控訴会社以外の者がその拘束を受けるいわれはない。控訴会社以外の控訴人らに対しては手形法上の保証債務の履行を求めるものではなく、手形債務に対する通常の保証契約による債務の履行を求めるものであるから控訴人らの主張は理由がない。

二、控訴人らの答弁および主張。

(一)  被控訴人の請求原因事実はすべてこれを認める。

(二)  東京地方裁判所は、昭和三十年一月二十一日控訴会社が申立人である同庁昭和二十九年(ミ)第三十八号会社更生事件につき、「申立会社は昭和三十年一月二十一日以前の原因に基ずいて生じた一切の金銭債務(従業員との雇傭関係から生じたものを除く)を弁済してはならない」との決定をした。したがつて、債権者である被控訴人は控訴会社に対し確認の訴かもしくは将来の給付の訴により本件債権の保護を求めるは格別、現在の給付の訴を以て本件手形金および過怠金の支払を命ずる裁判を求めることはできないし、また、保証債務の附従性から、主たる債務者である控訴会社について生じた弁済禁止の保全処分の効力は、連帯保証人であるその余の控訴人らに及ぶものと解すべきであるから同人らに対しても現在の給付の訴を以て直ちにその支払を命ずる裁判を求めることはできない。

(三)  被控訴人は控訴会社以外の控訴人らに対し、本件手形につき保証に基ずく請求をするというのであるが、手形の保証は、手形または補箋にすべきものであるところ、かゝる形式を履践しない本件保証は手形保証としての効力がないから控訴会社以外の控訴人らに対する本訴請求は失当である。

三、証拠〈省略〉

理由

被控訴人主張の請求原因事実は、すべて控訴人らにおいて認めて争わないところである。それゆえ、特段の事由のない限り、控訴人らは被控訴人に対し連帯して金八百万円および内金百万円についてはその満期の翌日である昭和二十九年十月十四日から、内金二百万円については同じく満期の翌日である同月二十四日から、内金五百万円については同じく満期の翌日である同月二十八日からいずれも完済に至るまで前記約旨に基ずく金百円につき一日六銭の割合による過怠金を支払うべき義務あるものといわなくてはならない。

控訴会社をのぞくその余の控訴人等七名は、被控訴人の本訴請求は手形の保証に基ずくものであるところ、手形の保証は手形または補箋上に記載してなすべきであるのにその記載がないから本件保証は手形保証としての効力がない旨主張するが、被控訴人の同人らに対する本訴請求は、手形法上の保証債務の履行を求めているのではなく、同法によらない保証契約に基ずく債務の履行を求めているものであることは、被控訴人の主張自体に徴して明らかである。しかして、手形債務もまた手形法によらないで、当事者の契約によつて有効にこれを担保し得るものと解すべきであるから、控訴人らの右主張は理由がなく採用することができない。

東京地方裁判所が昭和三十年一月二十一日控訴会社が申立人である同庁昭和二十九年(ミ)第三十八号会社更生事件につき「申立会社は昭和三十年一月二十一日以前の原因に基ずいて生じた一切の金銭債務(従業員との雇傭関係から生じたものを除く)を弁済してはならない」旨の保全処分決定をしたことは当事者間に争がない。控訴会社は、右保全処分の結果債権者たる被控訴人は確認の訴もしくは、給付の訴により本件債権の保護を求めるは格別、現在の給付の訴を以て本件手形金および過怠金の支払を命ずる裁判を求めることができない旨主張する。しかしながら、右保全処分は、控訴会社に対してその金銭債務(従業員との雇傭関係から生じたものを除く)を任意に弁済することを禁ずるだけであつて、被控訴人に対し本件債権の取立を禁止するものでないし、また、それによつて控訴会社の本件債務がその履行を猶予せられその履行期未到来の状態に立ち至つたものでもないから被控訴人は現在の給付の訴によつて控訴会社に対し本件債務の支払を求め得ること当然であつて、右抗弁は理由がない。したがつて、控訴会社に対する本訴請求を失当とする前提に立脚する爾余の控訴人らの抗弁もまた理由がなく採用に値しない。

よつて、原判決は相当であるので、本件控訴を棄却することとし民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 猪股薫 雨村是夫 安久津武人)

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